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大阪高等裁判所 昭和42年(行ケ)11号 判決

原告 上田軍治 外一名

被告 滋賀県選挙管理委員会

主文

昭和四一年八月五日執行された虎姫町議会議員選挙において、その選挙の効力に関し申立てられた異議申立を棄却する旨の虎姫町選挙管理委員会の決定に対する審査の申立に対し、被告が昭和四二年一一月二五日付をもつてこれを棄却した裁決を取消す。

右選挙を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告ら

1  主たる請求の趣旨

主文と同旨の判決。

2  予備的申立の趣旨

主文記載の選挙において、その当選の効力に関し申立てられた異議申立を棄却する旨の虎姫町選挙管理委員会の決定に対する審査の申立に対し、被告が昭和四二年一一月二五日付をもつてこれを棄却した裁決を取消す。

右選挙における当選人三谷新一、国友孝男、下司治武、上田章、中川新一、田中喜八、小崎保雄、米田正男、新井弥津之進、尚永保、古川春敏、川合治の各当選を無効とする。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

第二請求の原因

一  原告らは、昭和四一年八月五日執行された虎姫町議会議員選挙(以下単に本件の選挙とい)における選挙人であるが、同町議会議員定数は一六名であるところ、原告らを含む左記一九名がこれに立候補し、投票の結果右一九名の得票数は左記のとおりであり、得票上位一六名が当選者と決定せられた。

栗原実(三〇八票)百々清方(二九七票)松井昇一(二四四票)松井捨治(二四一票)三谷新一(二三七票)国友孝男(二二五票)下司治武(二二三票)上田章(二二二票)中川新一(二一五票)田中喜八(二一五票)小崎保雄(二一四票)米田正男(二〇〇票)新井弥津之進(二〇〇票)尚永保(一八六票)古川春敏(一八五票)川合治(一七七票)以上一六名当選。

原告上田軍治(一二七票)原告森弥太郎(九四票)島上武雄(五五票)以上三名落選。

二  しかしながら、本件選挙には次のとおり不在者投票の管理執行に違法がある。すなわち、

不在者投票制度は、公職選挙法(以下単に法という)四四条一項の「選挙人は、選挙の当日、自ら投票所に行き………投票しなければならない。」という原則に対する例外であり、同制度の管理執行の如何によつては選挙の公正を著しく阻害するおそれがあるから、法四九条所定の不在事由の認定に際しては、とりわけ慎重さが要求されるべきであり、右不在事由の証明は公職選挙法施行令(以下単に令という)五二条一項により一定の証明書の提出によつてなされねばならず、同条三項により疎明をもつて許される場合は、右証明書を提出できない正当の事由の存在をも疎明しなければならないのである。

しかるに、本件選挙における不在者投票総数一三六票のうち一一二件については、右不在事由の証明書の提出がなく、疎明書の提出によつて不在事由の認定がなされたのであるが、その疎明書の記載によると、不在事由については、その大部分が「病気のために病院へ行く」あるいは「付添のため」等極めて薄弱なもので、法四九条各号の事由に該当するとは到底考えられないばかりでなく、そのほとんどは証明書を提出できない正当な事由についての疎明が記載されていない。

もつとも、右不在事由および右証明書を提出できない正当事由は、その詳細を疎明書に記載させなくてもよいけれども、口頭で説明を受けた場合少くともその要旨を疎明書に選挙人自ら記載させるか、選管職員においてこれを記載しておかなければ違法であるというべきである。右各事由の存在は、証拠的には結局疎明書の記載によつて判断する以外に途がないのであるから、その要旨すら記載されていないときは、結局その疎明がないといわざるをえないのである。のみならず、右一一二件の不在事由の大半は、法四九条二号の事由に該当し、令五二条一項二号によればそれら事由の証明は虎姫町長の証明書で事足りるものであるところ、右証明書は本件不在者投票所である虎姫町選挙管理委員会(以下単に町選管という)と同一場所の同町役場で発行を求めえた事実に徴すると、右証明書を提出できない正当事由等は全くなかつたものといわねばならない。

したがつて、右一一二件の不在者投票は、町選管において法四九条所定の不在事由がなく、証明書を提出できない正当事由の疎明がないのに、漫然と不在事由が存在すると認定したこととなり、不在者投票の管理執行に重大な違法があるから、右一一二票はすべて無効である。

三  右一一二票の無効票は、前記当選者の各得票数にかんがみると、最高位落選者である原告上田の前記得票数からして、前記当選者中下位一二名について選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるということができる。すなわち、右無効票は誰に投票されたか不明であるから、右原告上田の得票数に一一二票を加えた二三九票以内の得票をえた下位一二名中誰が当選を失うかも不明であり、したがつて、右一二名全員の選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるといわなければならない。そして、議員定数一六名中圧倒的多数の一二名が当選を失わしめられることとなれば、議会が構成できないこととなるから、このような場合は一部の当選無効にとどまらず、選挙無効の原因になると解すべきである。

四  仮に、選挙無効の主張が認められないとしても、無効票数が最高位落選者と当選者との得票差より多いときは、該当当選者全員の当選は無効といわなければならない。したがつて、最高位落選者である原告上田の得票数との差が無効票一一二より少い得票数の下位当選者一二名全員の当選は無効といわなければならない。右一二名中から当選無効者を特定することができない以上、その一二名全員の当選を無効とするほかはないのである。

五  原告らは、以上の理由により本件選挙は無効であり、仮に有効であるとしても本件当選人の当選は無効であるとして、法定期間内に町選管に対し本件選挙の効力および当選の効力に関し異議の申立をなし、異議を棄却するとの決定を受けたので、さらに被告に対し審査の申立をしたところ、昭和四二年一一月二五日付でこれを棄却するとの裁決がなされ、同裁決書は同月二七日原告らに交付された。

よつて、原告らは、本訴を提起し、主たる請求として本件選挙の効力に関する裁決の取消と本件選挙の無効確認を、予備的請求として当選の効力に関する裁決の取消と当選の無効確認を求める。

第三被告の答弁と主張

一  請求原因一の事実は認める。

同二の事実のうち、本件選挙における不在者投票総数が一三六票であり、疎明による不在者投票者が一一二名であること、疎明による不在者投票者の不在事由証明は、大部分虎姫町長の証明書で事足りることは認めるが、その余の事実は否認する。

同三、四の事実は否認する。

同五の事実のうち、原告らが本件選挙および当選は無効であるとして法定期間内に町選管に異議申立をしたところ棄却され、さらに被告に審査申立をしたが、昭和四二年一一月二五日付で棄却されたことは認めるが、その余の点は否認する。

二  本件不在者投票者一三六名中疎明による不在者投票者一一二名の氏名、住所、生年、不在事由、法四九条の該当号は別表のとおりであり、これを不在事由により区別すると、三一名が一号に、六九名が二号に、一二名が三号に各該当しており、不在事由は近年社会生活の変化発展に伴い徐々に拡大解釈されているのであつて、この点に関する町選管の判断に何等誤りはない。

三  本件不在者投票について、町選管委員長は、これを請求しようとする者に対し、「その理由をていねいに書き、それを証明する書類を添付して請求すること、理由をいつわつて投票すると罰せられる」旨記載した注意書を不在者投票場である虎姫町役場玄関に掲示して不正な不在者投票に対する警告をなし、個々の手続においても、不在事由の証明書を提出しない選挙人に対しては、疎明書(乙第一号証の一ないし一一二)を提出させると共に、町選管職員をして口頭で不在事由および右証明書を提出できない正当事由の存在について詳細に事情を聴取し、一応確からしいとの心証を得たうえで、先例判例等も参考にし、不在者投票用紙を交付したのである。

不在者投票の請求に対し、町選管は請求書および添付の証明書等につき形式を審査する権限は有するが、書類に記載してある不在事由の存否について実質的審査権限は有しないものであるし、また疎明による請求の場合選管委員長において疎明書等により疎明事実が一応確かであるとの心証を得るに至れば投票を拒否すべきではなく、かつ疎明の方法について法令上の制限がなく、したがつて必ずしも文書をもつてすることを要せず、口頭でさせても違法ではない。

四  ところで同法四九条二号に該当する不在事由の証明は、令五二条によりおおむね虎姫町長の証明書で事足りるのであるが、この点について昭和四一年三月二四日付滋賀県総務部長から各市町村長宛「一般行政証明事務の合理化について(通知)」なる文書をもつて行政指導がなされ、虎姫町においては、これに従つて一般行政証明事務を処理することとしていたところ、右通知によれば、不在者投票に関する証明は市町村で発行してよいものの中に含まれてはいるが、「市町村長がなす証明は、市町村長として公の立場で知つていることだけに限るべきであつて、市町村長が職務上知りえない事柄、すなわち市町村役場に根拠となる公の帳簿等のないものは行なうべきものでない。」とされており、不在者投票に関する証明中法四九条五号事由については公の帳簿である住民基本台帳等によりこれを証明することができるが、同条二号の場合は何等公の帳簿等なく、市町村長が公の立場で知つている事柄に該当しないので、虎姫町長においても右証明書を発行するに由ないところであつた。右事実は、昭和四一年八月当時虎姫町職員であつた辰已外弥、横田栄二郎、北川正之らにおいてこれを知悉しており、他面同人らは町選管の書記あるいは嘱託を兼務し委員長の補助として不在者投票事務にも従事していたので、本件不在投票の請求を審査するにあたり、同条二号事由については虎姫町長の証明書を提出できないことについては、選挙人の疎明を待つまでもなく、町選管において顕著な事実であつた。したがつて、町選管はこのようなものについては、不在事由の存否について疎明があるか否かによつて不在者投票用紙を交付すべきか否かを判断すれば足りたものといわねばならない。仮に右虎姫町の証明書発行に関する事務取扱が誤りであるとしても、それは虎姫町の事務取扱上の問題であつて、町選管の選挙管理執行上の違法ということにはならない。

また、不在事由証明書の発行権者が虎姫町長以外である場合の不在者投票の請求については、町選管において必ず証明書の提出を求めたのであるが、選挙人が時間的余裕がない時の理由で証明書をとることができない旨詳細に申し述べたので、証明書を提出できない正当の事由があるものと判断したのである。もし、このような場合に町選管が令五二条を杓子定規に解釈して不在者投票を拒否したとすれば、選挙人に著しい経済的、時間的負担を強いるか、棄権を余儀なくさせるものとして非難されるであろう。口頭もしくは書面で疎明せられた不在事由の内容および日時等の関係から証明者のないことや正当事由によつて証明書の提出できない事情が窺い知られる場合は、この点についての疎明もなされたものとみて妨げないというべきであり、これを証明書を提出できない正当事由の疎明がないとして不在者投票手続を違法とするのは、余りにも厳に過ぎて妥当でない。

五  仮に、本件疎明による不在者投票中法四九条二号事由による請求の審査にあたり、虎姫町長発行の証明書を提出させなかつたことが選挙の管理執行規定に違反するものとしても、同町長の発行する証明書の作成は実質的には町長部局の総務課の事務吏員により行われるものであるところ、この事務吏員は前記辰已外弥らであつて、町選管の書記あるいは嘱託に併任されて本件不在者投票事務に従事し、疎明により不在事由があるとの心証を得たうえで不在者投票をさせたのであるから、町長の証明書を発行しても差支えないというのであつたならば、同人らは町長部局の事務吏員として法四九条二号所定の事由がある旨の証明書を発行していたものと推認されるのである。してみれると、本件の場合虎姫町長の証明書発行ならびに町選管への提出の有無の差はあつても、いずれにしても不在者投票をさせる結果となつたことに差異はないから、右違反は選挙の結果に異動を及ぼすことはなかつたといわなければならない。

したがつて、本件選挙には管理執行上の規定違反はなく、少くとも選挙の結果に影響し選挙を無効としなければならない程の重大かつ明白な違法はない。

六  仮に、本件選挙において、原告主張のように不在者投票について何票かの無効票が存在するとしても、右無効票は法二〇九条の二にいわゆる潜在無効投票であり、開票区ごとに各候補者の得票数から、当該無効投票数を各候補者の得票数に応じて按分して得た数をそれぞれ差引くこととなるので、開票区と選挙区が同一である本件選挙においては、候補者の得票順位に変更をきたすことはなく、したがつて当選無効とされる当選人はない。

第四被告の主張に対する原告らの答弁

被告主張四の滋賀県総務部長の通知に関する解釈は、これを曲解するものか、令五二条一項二号、四号の規定を無視するものである。法律、政令で証明の権利を与えられた市町村長は、その交付請求を受けた場合、その事由があると認めるときは直ちに証明書を交付すべき義務を課せられている(同条二項)のであつて、一県総務部長の通知によつて一般的に法四九条二号、四号の証明書の発行を拒否することが許されないことは明らかである。右通知の真意は、慎重に十分調査し不在事由を認めるに足る資料の提示等を求めたうえで発行せよという趣旨であつて、不在事由の証明の如きは、公の帳簿による証明等ほとんどあり得ず、有権者である住民サービスの建前から認められた規定であるから公的に慎重に調査して発行すればよいのである。

また、被告主張五は、非論理的な法律論であつて取るに足りない。町選管の辰已外弥らが、虎姫町長は法四九条二号、四号の不在事由の証明書を発行できないことを認識していたというのは虚偽であつて、本訴提起後に被告が考え出した理屈に過ぎない。

第五双方の立証〈省略〉

理由

第一

一  原告らが本件選挙および当選は無効であるとして法定期間内に町選管に対し異議申立をしたが棄却され、さらに被告に審査申立をしたところ、昭和四二年一一月二五日付で棄却されたことは当事者間に争なく、弁論の全趣旨によれば、本訴は法二〇三条一項二〇七条一項所定の期間内に提起されたものと認められる。

二  請求原因一の事実、本件選挙における不在者投票総数が一三六票であり、そのうち不在事由について証明書を提出せず、疎明によつて不在者投票をした者が一一二名あつたことは当時者間に争がなく、成立に争のない乙第一号証の一ないし一一二、証人横田栄二郎、同辰已外弥の各証言(いずれも第一回)によると、右疎明による不在者投票をした一一二名の選挙人の氏名、住所、生年は別表記載のとおりであり、番号1の一名は本件選挙期日の告示がなされた昭和四一年七月二九日に、番号2ないし5の四名は同月三〇日に、番号6ないし15の一〇名は同月三一日、16ないし20の五名は同年八月一日に、番号21ないし43の二三名は同月二日に、番号44ないし99の五六名は同月三日に、番号100ないし112の一三名は選挙期日の前日である同月四日に、いずれも自から虎姫町役場内の町選管事務局に出頭して不在者投票の請求をなし、町選管があらかじめ印刷して用意していた疎明用紙(投票当日投票できない理由欄と証明書を提出できない理由欄とが設けてある)に不在事由等を記入し(但し、証明書を提出できない理由を記載した者は一部)、これを提出して投票用紙および不在者投票用封筒の交付を受け、直ちに同役場内に設けられた不在者投票管理者(同町選管委員長)の管理する投票を記載する場所において投票をなしたものであることを認めることができる。

原告らは、前記一一二名の選挙人のなした不在者投票は、町選管が法四九条または令五二条の規定に違背してなさしめた違法無効のもので、本件選挙は右管理執行上の違法があるから、無効である旨主張するので、以下その当否について判断する。

第二不在者投票事由について

一  前記一一二名の選挙人が本件不在者投票請求にあたり、疎明書又は口頭で不在者投票事務担当の町選管職員(以下単に係員という)に対し申立てたものと認められる不在事由は次のとおりである(以下各番号の名下の職業、年令は不在者投票時のものであり、時間は不在者投票請求受付時間である)。

1  藤田静代(無職 三一才)(七・二九後二・四八)

同人の不在事由は、すでに出産の予定日が過ぎているので月末から出産のため長浜病院へ入院するためというのであり(乙第一号証の一、同人の証言)、

2  松井とき江(無職 二四才)(七・三〇前一〇・五二)

同人の不在事由は、福井市田原町に在住の妹が病気をしており、その看護のため七月三〇日から八月一四日まで同市に滞在するというのであり(乙第一号証の二)、

3  秦一男(自動車運転手 二二才)(七・三〇後一・一八)

同人の不在事由は、八月五日の投票日に行われる松阪紙工業株式会社の就職試験を受験するため七月三〇日から八月六日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の三)(滞在地が明らかでないけれども、虎姫町以外の地であると推認される)、

4  吉原信義(自動車運転手 三八才)(七・三〇後三・〇五)

同人の不在事由は、勤務先の大阪の土建コンクリート会社の業務上の都合で七月三一日から八月一四日まで虎姫町の自宅に帰宅することができないというのであり(乙第一号証の四、同人の証言)、

5  虎頭悦子(無職 三六才)(七・三〇後三・一〇)

同人の不在事由は、東京に在住する同人の実姉の子供(中学一年生の女子)が遊びにきていたが、八月一日に学級のクラブ活動があり、単身では帰せないので、どうしてもそれまでに東京へ送つて行つてやらなければならないし、かつ右実姉が病気をしていたので見舞かたがた看病もしてやりたいので、七月三一日に上京し八月六日まで滞在の予定であるというのであり(乙第一号証の五、同人の証言)、

6  草姥貞子(農業 三四才)(七・三一前九・五五)

同人の不在事由は、福井市田原下町に在住の姉の家が忙しいので、その手伝のため七月三一日に出掛けて八月一〇日まで滞在する予定であるというのであり(乙第一号証の六)、

7  新井松秋(土方 二一才)(七・三一前一〇・三一)

8  新井しまゑ(家事 二四才)(七・三一前一〇・三三)

9  新井ひさゑ(農業 三五才)(七・三一前一〇・四〇)

右三名の不在事由は同一で、名古屋市瑞穂区雁道に在住する新井善一(松秋、しまゑの兄、ひさゑの弟)が、同居中の同人の妻の父親ともめごとを起し急に家を出なければならないことになつたので、家探しと引越しの手伝に行つてやることになり、八月一日から同月八日まで同市に滞在する予定であるというのであり(乙第一号証の七、八、九、証人新井松秋、同新井ひさゑの各証言)、

10  松井平八(会社員 二三才)(七・三一後一・〇〇)

同人の不在事由は、同人は愛知川町石橋の富士鉄工に勤務しているが、投票日は運転手として朝六時から夜九時まで勤務し虎姫町へ帰れないというのであり(乙第一号証の一〇、同人の証言)、

11  中村利彦(会社員 四六才)(七・三一後一・〇五)

同人の不在事由は、同人の勤務先の大阪の会社の社用で姫路出張を命ぜられ、八月五日午前四時五二分虎姫駅発列車で出発するというのであり(乙第一号証の一一)(帰宅時間が明らかでないが、用務、行先等にかんがみ投票時間内に帰宅できない趣旨であると推認される)、

12  草姥三郎(人夫 三八才)(七・三一後三・〇六)

同人の不在事由は、親類不幸のため八月一日から同月七日まで福井市田原下町辻本伊太郎方へ行くというのであり(乙第一号証の一二)、

13  藤井富夫(地方公務員 三九才)(七・三一後三・二〇)

同人の不在事由は、同人は滋賀県庁に勤務しているものであるが、八月五、六の両日大津市小松漁業センターで行われる県税務職員の宿泊研修に出席するためというのであり(乙第一号証の一三、同人の証言)、

14  田辺太象(公務員 四八才)(七・三一後三・四〇)

15  森とし枝(会社員 三〇才)(七・三一後四・五〇)

右両名の不在事由は、いずれも勤務先が遠方(田辺は名古屋市、森は伊丹市)で、朝の出勤時間が早く帰宅もおそくなるので、投票当日投票時間内に投票することができないため、日曜日である七月三一日に不在者投票をしたいというのであり(乙第一号証の一四、一五、田辺の証言)、

16  森捨雄(自動車運転手 三二才)(八・一前八・〇五)

同人の不在事由は、同人提出の疎明書(乙第一号証の一六)には「福井県大野市北陸建設につとめているおじが悪いので、看護するため八月一日から同月七日まで行く」旨記載されているが、同人の証言によると、同人は当時右北陸建設へ出稼ぎに行つていたが、七月下旬一週間か一〇日程仕事を休んで虎姫町の自宅へ帰つていたこと、しかし余り長くなるのと、右仕事先で世話になつている人(叔父ではない)が病気をしていたので多少の介抱もしてやりたいと考え、八月一日に右福井県下の仕事先へ帰ることにしたが、帰れば仕事の都合で当分帰宅できないため不在者投票の請求をしたもので、その際係員に右の事由を説明したが疎明書には前記のような記載をしたものであることを認めることができ、同人が申立てた不在事由の主たるものは、選挙の当日福井県下で業務に従事中の予定であるというにあつたものと認められる。

17  米田重樹(農協連職員 五一才)(八・一前九・一二)

同人の不在事由は、八月五、六の両日和歌山県へ職務上出張するというのであり(乙第一号証の一七、同人の証言)、

18  松本繁松(農業 七一才)(八・一前一一・一二)

同人の不在事由は、心臓発作治療のため八月二日から一二月末頃まで京都市済生会病院へ入院の予定であるというのであり(乙第一号証の二〇)、

19  伊藤昭夫(自動車修理工 二一才)(八・一後一・三一)

同人の不在事由は、尾張一宮市の西尾ボデーに勤務しているが、朝の出勤時間が早く帰宅も夜おそくなるので、投票時間内に投票できないというのであり(乙第一号証の二一)(同人の証言によれば、当時同人は同市へ泊り込みで働きに行つていたもので、虎姫町の自宅から通勤していたものではなく、実際の不在事由は、仕事の関係上投票日に帰宅して投票することができないということであつたものと認められるが、係員に対しては、疎明書に記載のような申立をしたものと認められる)、

20  宮部知恵(無職 六八才)(八・一後四・〇五)

同人の不在事由は、同人の大垣高等女学校在学当時の同級生の懇親会をかねた旅行が、八月三日朝出発大磯泊り、四日箱根泊り、五日鎌倉を廻つて同夜帰る予定で計画され、これに参加するため投票日に投票することができないというのであり(乙第一号証の二二、同人の証言)、

21  河島松太郎(無職 五八才)(八・二前八・二五)

同人の不在事由は、愛知県丹羽郡扶桑町へ嫁入りしている娘の子供(孫)の病気見舞のため、八月二日から出掛け約一週間滞在の予定であるというのであり(乙第一号証の二三、同人の証言)、

22  森シマエ(家事手伝 三一才)(八・二前九・四七)

23  森重春(建築業 三六才)(八・二前一〇・一四)

森重春の不在事由は、かねて病気検査のため、京都南丹病院へ入院していたところ、入院治療の必要があると診断されたので、準備のため一旦帰宅し、八月二日から再入院するため、また森シマエの不在事由は、夫重春に付添の必要があるため、共に投票日に投票することができないというのであり(乙第一号証の一八、一九、同人らの証言)、

24  新井宗与松(無職 九〇才)(八・二前九・一七)

同人の不在事由は、金沢市在住の弟が死亡したため、八月二日夜出発し八日に帰る予定であるというのであり(乙第一号証の二四)、

25  宮川一子(農業 三四才)(八・二前九・二五)

同人の不在事由は、同人提出の疎明書(乙第一号証の二五)では、「八月二日から同月一〇日まで静岡県駿東郡長泉町にある親類の結婚披露のため」となつているが、同人の証言によると、実際は四国へ団体旅行に出掛けることになつていたもので、当初その旨記載した疎明書を提出したが、それでは通らぬと云われたのでこれを書き直し、実際と異なる前記事由を記載し再度提出したもので、これを受けた係員において疎明書記載の不在事由が名目上のものにすぎないことを察知していたものと認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。

26  上田さよ子(農業 二九才)(八・二前九・三五)

同人の不在事由は、八月四日から同月一〇日まで出産のため橋場医院へ入院するというのであり(乙第一号証の二六、同人の証言)、

27  北川治(農業 二三才)(八・二前九・四五)

28  北川洋子(農業 二一才)(八・二前九・五〇)

右両名の不在事由は、同人らは夫婦であるが、鳥取市の洋子の実家の母親が病気のため共に八月三日から七日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の二七、二八)、

29  中川きよの(無職 五八才)(八・二前一〇・三〇)

30  松本かずゑ(無職 三四才)(八・二後〇・〇四)

31  草姥貞恵(無職 三六才)(八・二後〇・〇五)

中川の不在事由は、福井市在住の娘が病気のため八月三日から同月一〇日まで、松本の不在事由は、京都府八幡町若林甚也方へ病気手伝のため八月二日から同月一六日まで、草姥の不在事由は、福井市下田原町河野新治方へ病気手伝のため八月三日から同月一〇日までそれぞれ出掛けるというのであり(乙第一号証の二九、三〇、三一)、

32  渡辺徳成(学生 二一才)(八・二後一・〇五)

同人の不在事由は、同人は京都の大谷大学の学生で本件選挙の頃は夏休で自宅にいたのであるが、偶々八月五日は午前八時五〇分から同大学で真宗学の重要講義があることになつており、それを聴講する必要があつたので、その前日から京都へ出掛ける予定であるというのであり(乙第一号証の三二、同人の証言)(講義終了時間が明らかでないが、投票時間内に帰れない趣旨であることが推認される)、

33  川越おしゆん(無職 六四才)(八・二後一・一五)

同人の不在事由は、福井市勝見町に在住の弟が病気のため八月二日から七日頃まで看護に行くというのであり(乙第一号証の三三)、

34  川島コリノ(無職 七〇才)(八・二後一・三〇)

同人の不在事由は、近江八幡に在住する親類が家を新築するため八月二日から九月一日まで手伝に出掛けるというのであり(乙第一号証の三四)、

35  田辺盛夫(自動車運転手 三五才)(八・二後二・二九)

同人の不在事由は、同人は京阪自動車株式会社八日市営業所に勤務しているが、八月五日は八日市発午前七時二〇分の京都行バスを運転し午後七時三〇分まで仕事があるため、午前六時一一分虎姫発の列車で出勤し、帰宅がおそくなるというのであり(乙第一号証の三五、同人の証言)、

36  花沢ふじの(無職 六三才)(八・二後二・三二)

同人の不在事由は、福井県小浜市在住の甥が病気のため八月二日から九月まで看護に出掛けるというのであり(乙第一号証の三六)、

37  山田きり(無職 七八才)(八・二後二・三五)

同人の不在事由は、足と胸が悪いので八月二日から八日まで京都の大学病院の人間ドツクに入るというのであり(乙第一号証の三七)、

38  古川春一(調理士 四五才)(八・二後二・四五)

同人の不在事由は、八月二日から同月一五日までの間大阪市阿倍野区の天楽食堂へ通勤で働きに行くこととなり、毎日午前六時二〇分虎姫発の列車で出勤し、午後八時に帰宅するので投票日に投票できないというのであり(乙第一号証の三八)、

39  中島コシヱ(無職 七九才)(八・二後三・三〇)

40  堀川すみ(無職 七五才)(八・二後四・二〇)

中島の不在事由は、滋賀県木之本町の姪が入院するので八月二日から同月七日まで見舞かたがた看護のため出掛けるというのであり(乙第一号証の三九)、堀川の不在事由は、京都市在住の息子が病気のため、八月二日から同月七日まで看護に行くというのであり(乙第一号証の四〇)、

41  堀川なか(無職 七一才)(八・二後四・三五)

同人の不在事由は、福井市花月四丁目の川越繁太郎方の法事のため、八月二日から同月六日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の四一)、

42  川越武正(土工 二九才)(八・二後四・四五)

同人の不在事由は、福井県大野郡西谷村の熊谷組で働くため八月二日から同月一四日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の四二、同人の証言)、

43  杉本ミツ(無職 八八才)(八・二後四・五九)

同人の不在事由は、病気のため八月三日診断を受けその結果入院することになるというのであり(乙第一号証の四三)、

44  前田キヨエ(日雇人夫 五二才)(八・三前八・四〇)

同人の不在事由は、八月三日から同月七日までは親の墓参り、長浜市役所の仕事の都合で休むことができないというのであり(乙第一号証の四四)、

45  野坂敏雄(土工 四〇才)(八・三前九・〇〇)

46  野坂みな(無職 五四才)(八・三前九・〇三)

野坂みなの不在事由は、病気のため八月四日から一〇日まで京都府立病院へ行くというのであり(乙第一号証の四六)、野坂敏雄の不在事由は、母親のみなに付添つて右期間右病院へ行くというのであり(乙第一号証の四五)、

47  北川こと(無職 六四才)(八・三前九・二三)

同人の不在事由は、八月三日から長浜病院へ入院するというのであり((乙第一号証の四七)、

48  新井政吉(運転手 二二才)(八・三前九・三三)

49  新井史代(二二才)(八・三前九・三三)

両名の不在事由は、共に八月三日から約一ケ月間岡崎市の清水建設へ出稼ぎに行くというのであり(乙第一号証の四八、四九、同人らの証言)、

50  杉本たせ(無職 八六才)(八・三前九・四〇)

51  大橋テツ(無職 六八才)(八・三前九・三五)

杉本の不在事由は、彦根市在住の息子仁蔵が病気のため見舞かたがた八月四日から同月七日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の五〇)、大橋の不在事由は、京都市の親戚の田村隆方へ病気見舞のため八月三日から同月末日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の五一、同人の証言)、

52  川越はま江(無職 二四才)(八・三前一〇・〇〇)

同人の不在事由は、大阪在住の同人の兄川越玉喜(当時二八才、独身)が病気で入院した旨知らせてきたので、看護のため八月三日から同月末日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の五二、同人の証言)、

53  森こいし(無職 七二才)(八・三前九・五八)

同人の不在事由は、八月三日から同月一〇日頃まで京都大学病院へ入院する予定であるというのであり(乙第一号証の五三)、

54  中島喜代之助(無職 七四才)(八・三前九・〇五)

同人の不在事由は、米原町在住の病気の娘の家へ八月三日から同月六日まで看護のため出掛けるというのであり(乙第一号証の五四)、

55  松井ヤスエ(無職 五七才)(八・三前九・五八)

同人の不在事由は、前記53の森こいしの付添として八月三日から一〇日頃まで京都大学病院へ出掛けるというのであり(乙第一号証の五五)、

56  上田久四郎(無職 八一才)(八・三前一〇・一三)

57  北川彦右エ門(無職 六三才)(八・三前一〇・二五)

58  上田さきの(無職 七八才)(八・三前一〇・三八)

上田久四郎の不在事由は、息子の病気見舞かたがた看病のため八月三日から同月一〇日まで長浜市へ、北川の不在事由は、息子の病気看病のため前同期間京都市へ、上田さきのの不在事由は、妹の病気見舞のため八月四日朝から京都大学病院へそれぞれ出掛けるというのであり(乙第一号証の五六、五七、五八)、

59  松島弘(自動車修理工 三三才)(八・三前一〇・三八)

同人の不在事由は、岐阜の松栄運送株式会社の用務で八月三日から一〇月まで広島県へ出張するというのであり(乙第一号証の五九)、

60  上田はぎの(無職 五五才)(八・三前一一・〇〇)

同人の不在事由は、岐阜市柳ケ瀬町の他家で住込みで働いている娘(二二才)が病気になり母親が面倒をみてやらなければならなかつたので、八月三日から同月六日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の六〇、同人の証言)

61  玉谷美江子(無職 五二才)(八・三前一〇・五〇)

同人の不在事由は、病気のため八月四日から同月末日まで京都府立大学病院へ入院するというのであり(乙第一号証の六一)、

62  上田善彦(土工 二一才)(八・三前一一・一一)

63  北川政秋(土工 二二才)(〃)

64  河島義男(土工 二四才)(〃)

右三名の不在事由は、いずれも、八月四日から京都の清水建設へ土木工事の仕事で働きに行くためというのであり(乙第一号証の六二、六三、六四、上田、北川の証言)、

65  中川ますゑ(無職 五一才)(八・三前一一・一五)

同人の不在事由は、京都市在住の中川政太郎の病気看護のため八月三日から同月一〇日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の六五)、

66  西川きぬ(無職 四六才)(八・三前一一・二六)

67  森川雪子(無職 三五才)(〃)

68  川越こいの(無職 五七才)(八・三前一一・二五)

右三名の不在事由は、いずれも、八月四日に大阪のおばの家へ手伝に出掛けるというのであり(乙第一号証の六六、六七、六八)、

69  杉本みよ子(無職 三〇才)(八・三前一一・三〇)

同人の不在事由は、同人の娘(当時七才)が心臓を悪くして八月二日に長浜病院へ入院し、付添いに行つていたが、翌三日に妹が一寸来てくれたので荷物を取りに帰宅した。しかし、五日の投票日には帰宅できるかどうかわからないので、ついでに不在者投票がしたいというのであり(乙第一号証の六七、同人の証言)、

70  糸数二郎(マツサージ 五五才)(八・三前一一・二四)

同人の不在事由は、仕事のため八月三日から同月七日まで泊りがけで彦根へ出張するというのであり(乙第一号証の七〇、同人の証言)、

71  森いと(無職 七二才)(八・三前一一・三六)

72  堀川こぶの(無職 八二才)(八・三前一一・五三)

73  松塚良子(無職 三〇才)(八・三前一一・五〇)

森の不在事由は、京都府八幡町在住の孫が病気なので看護のため八月三日から同月七日まで、堀川の不在事由は、尼崎市在住の娘が病気なので見舞のため八月四日から同月一五日まで、松塚の不在事由は、母の身体が悪いので親許へそれぞれ出掛けるというのであり(乙第一号証の七一、七二、七三)(73は行先地、滞在期間が明らかでないが、投票日に虎姫町以外の地に滞在する予定である趣旨と推認される)、

74  吉田善六(六四才)(八・三後〇・一六)

同人の不在事由は、大阪市此花区の川越三吉方へ八月四日から同月七日まで登記の用事で出掛けるというのであり(乙第一号証の七四)、

75  池田ことへ(無職 六九才)(八・三後〇・一七)

同人の不在事由は、近江八幡市へ嫁いでいる娘の子供(孫)が悪いという電話連絡があつたので、看病のため八月三日から同月六日まで行くというのであり(乙第一号証の七五)、

76  松島すえの(無職 九二才)(八・三後〇・三五)

同人の不在事由は、京都市在住の娘が病気のため八月三日から一〇日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の七六)、

77  新井善四郎(無職 七五才)(八・三後〇・四三)

同人の不在事由は、嫁入りする孫の結婚式のため八月三日から七日まで大東市へ出掛けるというのであり(乙第一号証の七七、同人の証言)、

78  新井ことよ(無職 七〇才)(八・三後〇・四六)

同人の不在事由は、大和市高田町に居住する孫が病気のため八月三日から六日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の七八)、

79  松井政男(三味線屋 六二才)(八・三後一・一二)

同人の不在事由は、営業上三味線の演奏会の準備等のため、八月四日朝から同月六日まで舞鶴市へ出掛けるというのであり(乙第一号証の七九、同人の証言)、

80  宮崎たまえ(無職 四八才)(八・三後一・一九)

81  宮崎のぶ子(無職 三〇才)(〃)

宮崎のぶ子の不在事由は、病気のため八月三日から七日まで京都府船井郡八木病院へ入院するというのであり(乙第一号証の八一)、宮崎たまえの不在事由は、妹のぶ子に付添のため期間右病院へ行くというのであり(乙第一号証の八〇)、

82  沢田喜三松(無職 七五才)(八・三後一・二六)

83  小林コツル(無職 六五才)(八・三後一・三一)

沢田の不在事由は、吹田市居住の娘病気のため(電話で知らせを受けた)、八月四日から同月一〇日まで、小林の不在事由は、大阪市西成区の小林三衛門方へ病気見舞のため(八月三日午前八時頃電話で知らせを受けた)、同日から同月八日頃までそれぞれ出掛けるというのであり(乙第一号証の八二、八三)、

84  新井イキ(無職 七三才)(八・三後一・四〇)

同人の不在事由は、診察を受けたうえ入院するため八月四日から一〇日まで京都病院へ行き不在というのであり(乙第一号証の八四)、(もつとも、同人の証言では、京都の娘が悪いというので世話をしに行かなければならなかつたのであり、自分自身が悪くて京都の病院へ行つたのではない旨供述しているが、不在者投票請求の際係員に対しそのような申立をしたものとは認められない)、

85  吉田コン(無職 六四才)(八・三後一・五二)

同人の不在事由は、頭部負傷で七月一四日以来長浜日赤病院へ入院中で、八月五日の投票日に投票所へ行ける見込はない。八月三日の日は医師の許可を得て着替えを取りに一寸家へ帰つたついでに不在者投票の請求をしたものであるというのであり(乙第一号証の八六、同人の証言)、

86  西沢与宗松(自動車運転手 三七才)(八・三後二・一六)

同人の不在事由は、八月四日から同月七日まで勤務先の京都の株式会社西沢コンクリートの従業員をバスに乗せこれを運転して福井県高浜海水浴場へ行くというのであり(乙第一号証の八九)、

87  上田たみ子(無職 二〇才)(八・三後一・一四)

同人の不在事由は、八月四日から同月三〇日まで大垣市の野村組へ働きに行くというのであり(乙第一号証の八五)、

88  川越はる江(無職 六九才)(八・三後二・二三)

89  川越清吉(無職 七一才)(八・三後二・二三)

同人らの不在事由は、いずれも大阪市此花区伝法町川越英之方へ、孫病気のため八月四日から七日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の八七、八八)、

90  中川ゑり子(無職 四五才)(八・三後一・二六)

同人の不在事由は、京都市のおばの家に病人ができ、京大病院へ行くことになつたので、八月四日から二五日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の九〇)、

91  新井よしへ(無職 八九才)(八・三後二・四三)

92  新井きみ(無職 五九才)(八・三後二・四四)

きみの不在事由は、同人の長男で京都に在住する弘(当時三三才)が盲腸炎で入院し、嫁は子供の面倒を見なければならないので交替の看病に来てほしいという電話連絡があつたので、八月三日から七日まで出掛けるため、よしへの不在事由は、同人は右きみの母親であるが高令で一人で歩行が困難であるところ、きみが右事由で京都へ行き不在になると投票日に一人で投票に行くことができないというのであり(乙第一号証の九二、きみの証言)、よしへ提出の疎明書(同号証の九一)には、きみ提出の疎明書(同号証の九二)と同文の不在事由が記載されているが、きみの証言によると、よしへの不在事由については、同人に代わつてきみから係員に口頭で右認定の事由を申述べたことが認められるから、乙第一号証の九一の疎明書記載の不在事由は誤つて記載されたものであると認める。

93  大住長三郎(無職 七七才)(八・三後二・五六)

同人の不在事由は、目の病気のため八月五日京都病院へ入院するというのであり(乙第一号証の九三)(もつとも同人は、疎明書は係の人に頼んで書いて貰つたもので、その際京都の栗須病院へ診て貰いに行くとは云つたが、京都病院へ入院するとはいわなかつたと証言している)、

94  小林富士子(無職 五二才)(八・三後三・一〇)

同人の不在事由は、福島県在住の弟の所へ八月四日から九日まで出産の手伝に行くというのであり(乙第一号証の九四)、

95  中川ふの(無職 六六才)(八・三後三・二〇)

同人の不在事由は、大阪市浪速区の田中才次郎方へ八月四日から同月一〇日まで病気看病のため出掛けるというのであり(乙第一号証の九五)、

96  高橋純一(国鉄職員 三九才)(八・三後三・二〇)

同人の不在事由は、八月四日午前六時〇四分の列車で吹田操車場へ出勤し、勤務あけの五日午前一一時から京都市で国鉄吹田地区慰安会に出席し、同日午後九時帰宅するため投票日に投票することができないというのであり(乙第一号証の九六、同人の証言)、

97  宮部照雄(会社員 二〇才)(八・三後三・五四)

同人の不在事由は、八月四日から七日まで大津市で開かれる関西レガツターに選手として出場するためというのであり(乙第一号証の九七、同人の証言)(右出場が同人の勤務先の会社の業務と関係があるのか、単なる個人の用務であるのかは明らかでないが、町選管は一号事由に該当するものとして不在投票を許している)、

98  池田敏雄(土工 四四才)(八・三後四・〇三)

同人の不在事由は、長野県南安雲郡梓川村の間組へ八月四日から同月七日まで働きに行くというのであり(乙第一号証の九八、同人の証言)、

99  松井繁男(土建 四〇才)(八・三後四・五六)

同人の不在事由は、大阪市の友人山本政吉の病気(頭の病気)見舞に行くというのであり(乙第一号証の九九)、

100  北川カツヱ(家事 六二才)(八・四前九・四九)

同人の不在事由は、彦根に住んでいる同人の次男がその勤務先の会社の慰安旅行で八月四日の夕方から二泊三日の予定で家族連れで旅行に出掛け、一家不在となるのでその留守番に八月四日から六日まで行くというのであり(乙第一号証の一〇〇、同人の証言)、

101  林長二郎(二一才)(八・四前九・一六)

同人の不在事由は、京都市中京区西の京北田町六四、肉屋藤田末蔵方から忙しいので手伝いに来てほしいとの電話連絡があり、今日(八月四日)から二〇日間程働きに行くことになつたので投票日に投票できないというのであり(乙第一号証の一〇一)、

102  池浦杲(医大インターン生 二五才)(八・四前一一・一〇)

同人の不在事由は、八月四日から六日まで高槻市大阪医科大学付属病院において泊り込みで実習するというのであり(乙第一号証の一〇二、同人の証言)、

103  小林繁造(配管工 四〇才)(八・四前一一・三〇)

同人の不在事由は、八月四日から七日頃まで静岡市登呂町の栗田工業の作業場へ水道工事のため出張するというのであり(乙第一号証の一〇三、同人の証言)、

104  前田松雄(郵便局員 四七才)(八・四前時間不明)

同人の不在事由は、同人の二女が八月五日午前八時三〇分から京都で行われる京都国際観光自動車株式会社の採用試験に受験するにつき、土地不案内の娘に付添つて行くので、同日投票ができないというのであり(乙第一号証の一〇四、同人の証言)、

105  松島弘子(手伝 二〇才)(八・四前一一・五五)

同人の不在事由は、八月四日から名古屋在住の母の妹の家へ子供の世話や家事の手伝に行くことになつているので、選挙当日は不在というのであり(乙第一号証の一〇五)、

106  磯島順子(会社員 二二才)(八・四後〇・二〇)

同人の不在事由は、同人提出の疎明書(乙第一号証の一〇六)では「八月四日一〇時の夜行にて能登へけんしゆう会に出席のため立ちますので投票できません」となつているが、同人の証言によると、実際は友達と二人で能登半島へ旅行する積りだつたもので、当初その旨係員に口頭で申述べたが、個人旅行では具合が悪いから研修会に出席のためとでもしたらと暗示せられたので、実際と異なる右事由を記載した疎明書を提出したもので、これを受付けた係員においてもそれが名目上のものにすぎないことを知悉していたものと認められ、右認定を覆えずに足る証拠はない。

107  山路良一(工業 六三才)(八・四後二・一四)

同人の不在事由は、事業上の用務で京阪方面へ出張する約束があるため八月四日夕方から同月六日午後まで出掛けるというのであり(乙第一号証の一〇七)、

108  平居昇(会社員 四六才)(八・四後一・二六)

同人の不在事由は、同人は長浜の旭電気に勤務しているものであるが、八月五日大津市で行われる火災自動報知機についての消防整備士の国家試験を受験するため、同日午前六時出発し一日中不在というのであり(乙第一号証の一〇八、同人の証言)(右受験が勤務先の会社の業務になるのか、個人の用務であるのかは明らかでない)、

109  和田川留次郎(クリーニング業 七七才)(八・四後二・三三)

同人の不在事由は、名古屋市熱田の森口孝司急病で(電話で知らせて来た)、看病のため八月四日から同月七日まで名古屋へ出掛けるというのであり(乙第一号証の一〇九)、

110  吉田正美(運転手 二七才)(八・四後三・三二)

同人の不在事由は、長距離運転の仕事で八月四日夜京都へ行き五日の投票に間にあわないというのであり(乙第一号証の一一〇)、

111  栗原米子(無職 五九才)(八・四後三・四九)

同人の不在事由は、福山市紅葉町に在住する姉婿が死去したため八月四日から同月六日まで出掛けるというのであり(乙第一号証の一一一、同人の証言)、

112  新井つばゑ(四一才)(八・四後四・〇二)

同人の不在事由は、大和高田市に在住する姉が危篤である旨の電報がきたので八月四日から五日間出掛けるというのである(乙第一号証の一一二)。

二  そこで以上の不在事由が法四九条各号所定の不在者投票事由に該当するか否かについて考えるに、

4、10、11、13ないし17、19、35、38、42、48、49、59、62、63、64、70、79、86、87、98、101、102、103、107、110は、いずれも同条一号事由に該当するものと認められる。32も学生が授業を受けることは同条同号にいわゆる業務にあたるものと解せられる。44については、選挙当日における不在事由が親の墓参りか、あるいは長浜市役所の仕事の都合か判然としないけれども、町選管は前者の事由は法定の不在事由にあたらないものとして後者の事由により不在者投票をさせたのと解される。しかして後者の理由だとすれば一号事由に該当するものと認められる。97、108については、いずれもその用務が勤務先の会社の業務に包含されるのかどうか、疎明書の記載と証人の証言(97については宮部照雄、108については平居昇の証言)のみでは明らかでないが、町選管は会社の業務と解したものと認められるのでこれに従う。そうすると右二件はいずれも一号事由に該当する。

2、3、5ないし9、12、21、22、24、27ないし31、33、34、36、39、40、41、45、50、51、52、54、55ないし58、60、65ないし69、71ないし78、80、82、83、88、89、90、92、94、95、99、100、105、109、111、112は、いずれも法四九条二号事由に該当するものと認められる(もつとも、右のうちには、選挙当日における不在がやむを得ないものであるかどうかについての具体的事情が明らかにされていないものが多数存するけれども、いずれも当該用務がやむを得ないものであるとして不在者投票の請求をしたものと解せられるから、右の事情の点は疎明で補足されれば足りるものと考える)。20については、不在事由とされているような旅行に参加することは、個人の気儘な旅行と異なり、また一人の都合で日程を変更することができないものであり、96についても、その不在事由とされているような性質の慰安会に参加することは、単なる個人の遊楽と異なるから、いずれも社会通念上やむを得ない用務と解するのが相当で、同条二号事由に該当するものと認める。104についても、当該事情のもとでは不在がやむを得ない用務と認められ、同条二号に該当する。

1、18、23、26、37、43、46、47、53、61、81、84、85、91、93は、いずれも同条三号事由に該当するものと認められる。

25、106は、その不在事由の個所で認定した事実によれば、法定の不在事由がないのに不在者投票を許したものといわなければならないから、選挙の管理執行上の違法があること明らかである。

第三証明書を提出することができない正当な事由および疎明の有無について

一  不在事由に該当しないため選挙の管理執行に違法があり無効と認定した前記二件を除いたその余の一一〇件について、証明書を提出できない正当な事由および疎明があるか否かについて判断する。

乙第一号証の一ないし二四、二六ないし一〇五、一〇七ないし一一二によれば、右25、106の二件を除いた一一〇件のうち、4、5、10、11、13、86、96、97、98、101、109、112の一二件については、それらの疎明書に一応証明書を提出できない理由についての記載があるが、他の九八件については、それらの疎明書にその点に関して何等の記載がないことが認められる。

ところで、不在者投票の制度は、投票日に投票できない選挙人に対し、投票日以前の日に投票させ、それらの人々の選挙権行使を全からしめようとする趣旨から設けられたものであるが、反面当日投票の原則(法四四条一項)に対する例外であり、その運用いかんによつては選挙の自由、公正を害する結果にもなるから、慎重に運用されなければならないことはいうまでもない。これを不在者投票に関し、不在事由を証明する書面を提出できない正当な事由およびその疎明についてみるのに、不在事由の疎明と同様疎明の方法については法令上何等の規定がないから、必ずしも文書をもつてすることを要せず、口頭をもつてすることも違法ではないと解すべきであるが、不在者投票を請求する場合は法四九条に掲げる事由について所定の者の証明書を提出するのが原則であつて(令五二条一項)、例外的にその証明事項について証明権者がない場合および正当な事由により証明書を提出できないときに限つて選管委員長に対する疎明をもつてかえることができるのである(同条三項)。したがつて、証明書を提出できない正当な事由がある場合とは、証明権者が不在事由の証明を拒んだときとか、証明書を提出することが事実上著しく困難であるときとか、やむを得ない事情であらかじめ証明権者から証明書をもらう時間的余裕がなかつたときとか、その他社会通念上相当と認められる事情が存する場合に限定されるべきであつて、これをむやみに拡張して解釈することは許されないというべきである。このような見地に立つて個々の場合を検討することとする。

二  法四九条一号に該当する不在事由については、勤務先の官公署、会社、事業所その他これに準ずるものの長又はその代理人の証明書を提出することを要するので(令五二条一項一号)、前掲一号事由に該当する三二件について、右証明書を提出することができない正当事由および疎明の有無について考えるに、

4については、証人吉原信義の証言によると、同人は虎姫町に住所を有するが、勤務先が大阪にある関係上大阪に宿泊し、七日ないし一〇ごとに虎姫町に帰つてくること、七月二九日叔父の葬式のため帰つたところ、始めて本件選挙のことを聞いて不在者投票をすることを思い立ち、翌七月三〇日町選管に赴きその請求をしたこと、八月五日の投票日には仕事の都合上虎姫町に帰れない予定であつたことが認められる。右のような事情のもとにおいては証明書を取寄せる時間的余裕がなく、証明書を提出できない正当な事由があると解するのが相当であつて、乙第一号証の四と右証人の証言によれば、右事由は不在事由と共に不在者投票請求の際疎明されたものと認められる。

10については、証人松井平八の証言によると、同人は平素彦根市の姉の家に宿泊し、そこから滋賀県愛知川町石橋所在の富士鉄工へ通勤していたが、七月三〇日に虎姫町の自宅へ帰り翌三一日(日曜日)に不在者投票をしたこと、平素は仕事の関係で帰宅することが困難であつたことを認めることができるけれども、本件選挙の投票日が八月五日であることは前から聞き知つていたというのであるから、特別の事情がない限りあらかじめ勤務先の会社から証明書の発行を受けることは可能であつたものといわなければならない。しかし、乙第一号証の一〇と右証人の証言によると、同人は不在者投票請求にあたり係員に対し、急病で急に帰宅したため社長が不在で証明書を貰ういとまがなかつた旨を疎明したことが認められるから、右理由の真偽は別として、係員としては、一応本人の申立を信用して右疎明のみで不在者投票を許すのほかなかつたものと認むべく、不在事由も疎明書と本人の口頭の説明で疎明されたものと認められるから、選挙の管理執行上の違法は認められない。

11については、乙第一号証の一一に、証明書を提出できない理由として「八月一日虎姫発四時五二分乗車のためと尚会社連絡不能のため」と記載されているが、これだけではあらかじめ勤務先の会社から証明書を貰うことができなかつた理由が明らかでなく、他に証明書を提出することができない正当な事由があつたことおよびその疎明がなされたことを認めうる何らの具体的資料もない。

13については、乙第一号証の一三と証人藤井富夫の証言によれば、七月三一日は日曜日だつたので不在者投票をすべく思いついたが、休日で証明書の発行を受けることができなかつたというのであるが、研修の予定は七月二〇日すぎからわかつており、また八月五日が投票日であることも告示と同時に知つたというのであるから、あらかじめ証明書の発行を受けることができなかつたものとは認め難く、右のような本人の恣意で証明書を提出することができない事由の有無を決することは、不在者投票制度の趣旨に反し許されないものというべきである。かして、他に証明書を提出できない正当事由について、相当な疎明がなされたことを認めるに足る何らの具体的資料もない。

14、15、19、35、38、44、59、86、87、97、110については、いずれも証明書を提出することができない正当な事由があつたことおよびその疎明がなされたことを認めるに足る証拠はない。

16については、証人森捨雄の証言により、当該事情のもとでは、働き先から証明書を取寄せるいとまがなく、これを提出することができない正当な事由があり、その事由は不在事由と共に口頭で一応疎明せられたものと認められる。町選管は、疎明書記載の不在事由(おじが悪いので看護するため)により二号該当事由があるものとして不在者投票をさせているが、前認定のように、右疎明書記載の不在事由は、本人が口頭で申し述べた不在事由の一部にすぎず、しかも主たる不在事由は業務の都合であつたことが認められるところ、右証人の証言によれば、右疎明書記載の不在事由はやむを得ない用務とは認められないから、二号事由による不在者投票は許さるべきでないが、本人には、一号に該当する不在事由が存したものであるから、結局本人に不在者投票を許したことは相当であつて、管理執行上の違法はなかつたことに帰する。

17については、証人米田重樹の証言によると、同人は滋賀県農業協同組合連合会の八日市工場長で、同工場関係の業務については、同人自身が令五二条一項一号の証明権者であつたことが認められるけれども、同人の県外出張は単に公務というのみで、右工場関係の用務にすぎないのか、それとも連合会の用務なのかが明らかでなく、もし後者だとすれば連合会長の証明書を提出すべきであり、前者だとしても右工場長の資格で自己自身の出張証明書を作成提出すべきものであつて、個人名義の疎明書の提出をもつて代用することは許されないものと解すべきである。しかして、同人に右証明書を提出することができない正当な事由があつたことを認むべき証拠はないから、これを提出せしめないで不在者投票を許した町選管の措置は違法であるといわなければならない。

32については、学校長の証明書の提出を要するものと解すべきところ、証人渡辺徳成の証言によつてもこれを提出できない正当な事由があつたものと認めることはできず、他に右事由の存在およびその疎明がなされたことを認めるに足る証拠はない。

42については、証人川越武正の証言は極めてあいまいで、働き先の証明書を提出することができない正当事由が存したことも、その疎明がなされたことも共に認むべき証拠がない。

48、49については、証人新井政吉の証言によると、同人およびその妻史代は、かねてから共に岡崎市の清水建設の作業場へ働きに行つていたが、二日間位の休みをとつて虎姫町の自宅へ帰つた際、たまたま八月五日に本件選挙が行われることを知り、岡崎へ戻る直前に不在者投票をしたものであることを認めることができ、このような場合には働き先から証明書を取寄せることは困難であると考えられるから、これを提出できない正当な事由があつたものと認むべく、しかしてその事由は不在事由と共に一応疎明せられたことが乙第一号証の四八、四九および証人新井政吉、同新井史代の証言によつて認められる。

62、63、64については、証人上田善彦、同北川政秋の証言によると、同人らおよび河島義男の三名は共に土方として働いていたが、不在者投票をした八月三日の数日前になつて、三人で同月四日から京都の清水建設へ働きに行くことを相談したものであるが、清水建設から証明書を取寄せようと思えば取寄せることができたものであることを認めることができ、他に証明書を提出することができない正当事由が存したことも、その疎明がなされことも共に認むべき証拠はない。

70、79、107については、糸数はマツサージ業を、松井は三味線屋を、小林は工業をそれぞれ営み、いずれも自己が営業主または事業主であるところ、これらの者が不在者投票をする場合においても自己名義の不在証明書を提出するのが法の建前であると解せられるが、疎明書の提出をもつて代えることとの間に実質的の差異を認め難いから、右の者らに証明書を提出せしめなかつたことをもつて、選挙の無効原因となるほどの重大な管理執行上の違法があつたものとは解せられない。しかして、70については乙第一号証の七〇と証人糸数二郎の証言により、79については同号証の七九と証人松井政男の証言により、107については同号証の一〇七により、いずれも不在事由が疎明されたことを認めることができる。

98については、乙第一号証の九八と証人池田敏雄の証言によると、同人は土工で、かねて長野県下で間組の下請をしていた越智某から働きに来るよう勧誘の手紙を貰つていたが、不在者投票をした八月三日の前日頃、夫婦喧嘩をしたことから急に間組へ働きに行く気になつて不在者投票をしたもので、働き先から証明書を取寄せる時間的余裕がなかつたというのであつて、事の真偽は別として、右事由は、疎明書と右趣旨の口頭の説明で係員に疎明したことが認められるから、係員が一応これを信用して不在者投票を許したことをもつて管理執行上の違法があつたものと認めることはできない。

101については、乙第一号証の一〇一(疎明書)によつて、京都の肉屋から盆前で忙しいから手伝いに来てほしいとの電話連絡があつて、急に八月四日から勤めに行くことになつたので、働き先から証明書を貰ういとまがない旨の疎明がなされたことを認めることができるから、一応これを信用して不在者投票を許した町選管の措置に管理執行上の違法はないものというべきである。

102については、乙第一号証の一〇二および証人池浦杲の証言によると、同人の住所は虎姫町にあるが、大阪医科大学のインターン生で、その頃同大学付属病院で実習中であつたため、高槻市内で下宿し、時々虎姫町の自宅へ帰つていたこと、八月四日から六日まで実習のため同病院に宿泊することになつており、このことは一週間前からわかつていたこと、本件選挙のことは前から知つており、八月四日虎姫町へ戻つた際不在者投票をしたことが認められる。このような事情のもとにあつては、虎姫町へ戻る前に証明書を貰う時間的余裕がなかつたことは解せられず、その証明書を提出できない正当な事由があつたものとは認められない。またこれを提出できないことについて相当な疎明がなされたことを認むべき証拠もない。

103については、乙第一号証の一〇三および証人小林繁造の証言によると、同人は配管工として岐阜へ通勤していたが、突然勤務先から静岡市登呂町の作業場へ出張するよう電話連絡を受け、直ちに八月四日に不在者投票をして同日午後の列車で出発したことが認められ、右のような事情のもとでは証明書を提出できない正当な事由があつたものと解するのが相当で、右事由は不在事由とともに疎明されたことが前掲証拠で認められる。

108については、証人平井昇の証言によると、同人が受験した試験は約一ケ月前から通知を受けていたことが認められるから、あらかじめ勤務先の会社の長から不在証明書を貰う時間的余裕がなかつたとは考えられず、他に右証明書を提出できない正当な事由の存在およびその疎明がなされたことを認むべき証拠はない。

三  法四九条二号に該当する不在事由については、令五二条一項第一号の者(選挙人が従事している職務若しくは業務に係る官公署、会社、事務所その他これに準ずるものの長又はその代理人)、医師、歯科医師、助産婦、選挙人の住所地の市町村長又は当該用務若しくは事故のため旅行中若しくは滞在中であるべき他の市町村長の証明書を提出することを要するが(令五二条一項二号)、成立に争のない乙第二号証、乙第八号証の一、二、乙第九号証の一、二、証人辰已外弥(第一、二回)、同横田栄二郎(第一回)、同下司純一郎の各証言によると、滋賀県では、昭和四一年三月二四日総務部長通知により管内市町村に対し、地方自治法二条三項一六号の規定に定める証明書の発行については、証明事項が市町村長として公の立場で知つていることだけに限るべきであつて、市町村長が職務上知りえない事柄、すなわち、市町村役場に証明事項の根拠となる公の帳簿等のないものについては発行しないように行政指導をしており、県内大津市、虎姫町等にあつては、この趣旨に従い法四九条二号に掲げる事由の不在証明については証明書を発行しておらず、昭和四一年八月当時虎姫町職員であると共に町選管の書記ないし嘱託を兼務していた辰已外弥、横田栄二郎、北川正之らもこのような取扱を知悉していて、本件不在者投票の請求にあたり虎姫町長の証明書の提出を求めなかつたことを認めることができる。

右虎姫町長の事務取扱は、令五二条二項の規定の趣旨に悖るものであるが、事実上同町長の証明書の発行が受けられない以上、町選管においてこれを提出せしめないで不在者投票を許したとしても、前掲他の証明権者の証明書をも提出できない正当事由の存在が疎明せらるる限り、管理執行上の違法があるものということはできない。

なお、本件選挙の如く、告示の日から選挙期日までの期間、したがつて不在者投票をなし得る期間が七日間という短期間である場合には、遠隔地の他の証明権者の証明書を入手することは事実上著しく困難である事情をも考慮して、前掲二号事由該当の六三件について証明書を提出することができない正当事由および疎明の有無について検討する。

2については、出発日時、行先地等から見て、医師および滞在地の市長の証明書を取寄せ提出するいとまがなかつたものと推認されるから、証明書を提出できない正当な事由があつたものと認むべく、その事由は不在事由と共に、乙第一号証の二により一応疎明されたものと認められる。

3については、受験先の会社の長は法定の証明権者と認め難く、また滞在地の市町村長の証明書を提出することは事実上著しく困難であつたことが推認されるから、これを提出することができない正当な事由があつたものと認むべく、その事由は不在事由と共に乙第一号証の三により一応疎明されたものと認められる。

5については、乙第一号証の五と証人虎頭悦子の証言により、証明書を提出することができない正当な事由があり、その事由は不在事由と共に一応疎明されたものと認められる。

6については、たゞ姉の家が忙しいというのみで、用務内容が具体的でないところ、投票日に投票できないやむを得ない用事があるべきことについて疎明があつたものと認むべき何らの具体的資料もないから、相当な疎明なくして漫然不在者投票を許したものと認めざるを得ない。

7、8、9については、乙第一号証の七、八、九と証人新井ひさゑ、同新井松秋の証言により、滞在地の市長の証明書を提出できない正当な事由があり、その事由は不在事由と共に一応疎明されたものと認められる。

12についても、乙第一号証の一二により前同様と認める。

20についても、乙第一号証の二二と証人宮部知恵の証言により前同様と認める。

21についても、乙第一号証の二三と証人河島松太郎の証言により、医師の証明書を提出することも事実上著しく困難であつたと附加するほか、前同様と認める。

22についても、乙第一号証の一八と証人森シマエ、同森重春の証言により、医師の証明書を貰う余裕がなかつたと附加するほか、前同様と認める。

24については、その用務内容自体に徴し証明書を提出できない正当な事由があること明らかであり、不在事由は乙第一号証の二四により疎明されたものと認められる。

27ないし31、36、40、50、51、54、56、57、58、65、71、72、73、75、76、78、82、83、88、89、95、99(いずれも病気見舞、看病)については、いずれも病人の病状、見舞または看護を要する必要度、特に投票日に投票を終えてから出掛けるいとまもない程急を要するものであつたかどうかが明らかでなく、その他投票日の不在が真にやむを得ないものであつたかどうかの具体的事情が明らかでなくこの点について首肯するに足る疎明がなされたことを認むべき何らの具体的資料もないから、定型的な疎明書記載の理由のみでは不在事由の疎明として不十分で、結局相当な不在事由の疎明なくして漫然不在者投票を許したものと認めざるを得ない。

39についても前同様で、ことにこの場合は、虎姫町と行先地の木之本町との距離的関係のみから考えても、投票日に投票できない時間的余裕すらなかつたものとは容易に認められない。

90についても、疎明書(乙第一号証の九〇)記載の理由のみでは、出発を一日おくらせ五日に投票を終えてから出掛けることができない程急を要するものであつたかどうかが明らかでなく、この点につき首肯するに足る疎明がなされたことを認むべき何らの具体的資料もない以上、前同様と認めざるを得ない。

34、66、67、68、94、105(いずれも手伝い)についても、用務の緊急性が明らかでなく、投票日の不在がやむを得ない用事のためであることについて疎明がなされたことを認むべき何らの具体的資料がないから、前同様と認めざるを得ない。

41については、証人堀川なかは、川越繁太郎方は主人の親戚であるが、一度もそこへ行つたことはなく、また法事があつても自分はそこへ行かない、不在者投票をしたことも知らない旨供述しているが、疎明書(乙第一号証の四一)には同人名下に堀川の捺印がなされ、「福井市花月四丁目二五川越繁太郎の家の法事のため八月二日から同月六日まで行く」と記載されておるから、堀川なかは不在者投票に赴き、右疎明書記載のような不在事由を申立てて不在者投票を請求したものと認むべく、右用務内容と行先地から考え滞在地の市長の証明書を提出することは事実上著しく困難であると認められるから、町選管が右疎明書により証明書を提出することができない正当な事由があり、かつ不在事由についても一応の疎明があつたものとして不在者投票を許したことにつき管理執行上の違法は認められない。

45については、後記の如く、野坂みな(番号46)の不在事由が証明されないので、付添人の不在事由についても、乙第一号証の四五のみでは不在事由の疎明があつたとなすことはできない。

52については、乙第一号証の五二と証人川越はま江の証言により、証明書を提出できない正当な事由があり、その事由は不在事由と共に疎明されたものと認められる。

55については、後記の如く、森こいし(番号53)の不在事由が証明されないので、付添人の不在事由についても、乙第一号証の五五(疎明書)のみでは疎明があつたものとなすことはできない。

60については、乙第一号証の六〇と証人上田はぎのの証言によつて証明書を提出することができない正当な事由があり、その事由は不在事由と共に疎明されたものと認められる。

66については、乙第一号証の六九と証人杉本みよ子の証言によつて60と同様と認められる。

70については、疎明書(乙第一号証の七四)記載の用務内容は具体的でなく、これのみでは投票日に投票できないやむを得ない事情が明らかでないところ、この点につき説明を求め首肯しうる疎明がなされたことを認むべき何らの具体的資料もないから、漠たる疎明書記載の理由のみで漫然不在者投票を許したものと認めざるを得ない(証人吉田善六の証言によれば、疎明書を提出したのみで不在事由につき係員に口頭で説明したことはなく、登記の仕事は八月三日に大阪へ行き簡単に一日で終り後は大阪の親戚を訪ね廻つていたことが認められる)。

77については、乙第一号証の七七と証人新井善四郎の証言により、証明書を提出することができない正当な事由があり、その事由は不在事由と共に疎明されたものと認められる。

80については、乙第一号証の八〇と証人宮崎のぶ子の証言により77と同様と認める。

92については、乙第一号証の九二と証人新井きみの証言により77と同様と認める。

96については、証人高橋純一の証言によると、あらかじめ勤務先の吹田操車場の長(令五二条一項二号により証明権者となつている一号の者)の証明書を貰うことは可能であつたと認められるから、証明書を提出できない正当な事由があつたものということはできない。したがつて、これを提出せしめないで疎明書によつて同人に不在者投票を許した町選管の措置は違法であるといわなければならない。

100については、乙第一号証の一〇〇と証人北川カツヱの証言により77と同様であると認める。

104についても、乙第一号証の一〇四と証人前田松雄の証言により77と同様であると認める。

109については、森口孝司との関係が明らかでないけれども、乙第一号証の一〇九により77と同様であると認める。

111については、乙第一号証の一一一と証人栗原米子の証言により77と同様であると認める。

112についても、乙第一号証の一一二により77と同様であると認める。

四  法四九条三号に該当する事由については、本件関係についていえば、医師、助産婦の証明書を提出することを要する(令五二条一項三号)ので、前掲三号事由に該当する一五件について右証明書を提出することができない正当事由および疎明の有無につき検討するに、

1については、乙第一号証の一および証人藤田静代の証言により、右証明書を貰う時間的余裕がなく、これを提出できない正当の事由があつたこと、その事由は不在事由とともに疎明があつたものと認められる。

23についても、乙第一号証の一九および証人森重春の証言により前同様と認める。

43についても、乙第一号証の四三および証人杉本ミツの証言により1と同様であると認める。

81についても、乙第一号証の八一および証人宮崎たまえの証言により1と同様であると認める。

91についても、証人新井きみの証言と、新井よしへが当時八四才の高令であつた事実により1と同様であると認める。町選管は疎明書(乙第一号証の九一)記載の不在事由に基づき二号事由に該当するものとして不在者投票を許しているが、右疎明書記載の不在事由は誤りであつて、実際の不在事由は口頭で申立てられた前認定の事由(老衰のため歩行が著しく困難であること)である。しかし、いずれにしても、新井よしへは不在者投票の適格を有したものであるから、同人に不在者投票を許したことについて管理執行上の違法はない。

18、26、37、46、47、53、61、84、85、93については、いずれも、医師(26についてはそのほかに助産婦)の証明書(入院予定の病院の医師の証明書に限定されない)を提出することができない正当な事由があつたものと認めるに足る証拠がない。

五  被告訴訟代理人は、町選管職員は、不在証明書の発行権者が虎姫町長以外の者である場合の不在者投票の請求については、必ず証明書の提出を求め、選挙人が時間的余裕がない等の理由で証明書をもらうことができない旨申し述べた場合は、詳細にその事由を聴取し、提出できない正当な事由または不在事由について相当な疎明があると判断したものに対してのみ不在者投票を許していたのであつて、もし令五二条を杓子定規に解釈して不在者投票を拒否したとすれば、選挙人に著しい経済的、時間的負担を強いるか、棄権を余儀なくさせるものとして非難される、と主張する。そして証人辰已外弥(第一、二回)、同横田栄二郎(第一回)の各証言中には、同人らは町選管の職員として不在者投票の申請を受けた場合、不在事由について説明を求めるのはもちろん、証明権者が虎姫町長以外の者である場合の証明書については、その不在事由を証明する文書の提出を求め、証明書を提出しえない者については、その理由を詳細に聴取し、時間的余裕がないものその他正当な事由があると判断したもののみ不在者投票を許すこととし、投票用紙を交付した旨の供述部分があるが、右証言は抽象的で、具体的に個々の場合については供述していないし、また疎明書以外に何らの記録の提出もないから、同人らの証言を鵜呑にして本件不在者投票が全部適法に行われ、何ら管理執行上の違法がなかつたものとなすことは到底できない。

六  以上のとおりであるから、番号1ないし5、7ないし10、12、16、20ないし24、41、43、48、49、52、60、69、70、77、79、80、81、91、92、98、100、101、103、104、107、109、111、112の三九件については、証明書を提出することができない事由および疎明があつたと認められるが、その余の七一件については、町選管は証明書を提出できない正当な事由がないのに、これありとして右七一名の者に対して不在者投票をさせた点において選挙の管理執行に違法があり無効とすべきである。

第四結論

以上認定したところによれば、本件選挙は、前記第二、第三において不在者投票を許すべきではないと判断した選挙人合計七三名(番号6、11、13、14、15、17、18、19、25ないし40、42、44ないし47、50、51、53ないし59、61ないし68、71ないし76、78、82ないし90、93ないし97、99、102、105、106、108、110)に対し、不在者投票をなさしめた点において選挙の管理執行上の違法があるものというべく、弁論の全趣旨によれば、本件選挙の開票区は全町一区であるであることが明らかであるから、もし右違法がなかつたならば、当選者と決定せられた候補者のうち得票数二〇〇票以下五名(米田正男、新井弥津之進、尚永保、古川春敏、川合治)および当選者と決定せられなかつた候補者のうち得票数一二七票の次点者である原告上田軍治の当落について差異を生ずる可能性があることが明らかであるから、右の違法に本件選挙の結果について異動を及ぼすおそれがあるといわなければならない。そして、当選者と決定せられた候補者のうち二一四票以上の上位一一名の候補者および当選者と決定せられなかつた候補者のうち得票数九四票以下の二名については右の違法はその当落に影響のないことが明らかであるが、右違法は選挙の管理執行に関する違法として選挙の無効をきたすものであつて、当選無効ではないし、またいわゆる選挙の人的一部無効は現行法上認め得ないから(最高裁判所第三小法廷昭和四四年七月一五日判決)、本件選挙は全部無効である、と認めなければならない。

被告訴訟代理人は、仮に何票かの無効票が存在するとしても、右無効票はいわゆる潜在無効投票であり、開票区は一区であるから法二〇九条の二の規定により右無効投票を各候補者の得票数から按分して差引くべきものであり、そうすると右の違法は何等各候補者の当落に影響がないことが明らかで、本件選挙の結果に移動を生ずるおそれがないから、本件選挙は有効であると主張するが、法二〇九条の二は、当選の効力に関する争訟の場合の規定であること明文上明らかであるから、本件のように選挙の効力に関する争訟においてはその適用がないものと解すべく、右主張は理由がない。

以上の理由により、被告が前記七三名の選挙人の不在者投票を有効と認め、本件選挙に管理執行上の違法がないとして原告の審査申立を棄却する旨の決定をしたのは不当であつて取消を免れず、本件選挙は無効であるから原告の本訴請求(主たる請求)は理由がある。

よつて、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡垣久晃 島崎三郎 上田次郎)

(別表省略)

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